桜井ロータリークラブ

ロータリアン向けお知らせ

2015年 10月例会

 

卓話(米山奨学会奨学生)

小学校から日本という少し特徴あるバックグラウンドを持つ彼女ならではの国際交流についての考え方、感じ方と後半は現在一番力を入れている研究についてお話をいただきました。来日17年目の彼女だからこそ感じる国際交流のお話し、そして、後半の研究の楽しさ等を大変興味深く拝聴いたしました。

来日17年目を迎えて

  劉 瀟 (リュウショウ)

         奈良先端科学技術大学院大学 修士 2 年

 

まず、私自身の自己紹介も含めた簡単な説明をさせていただきます。性格は、研究の道を進む一番の理由でもあると思いますが、好奇心旺盛で少し人見知りです。趣味はスポーツ観戦で、特にフィギュアスケート、サッカーが好きです。また、奨学金を頂けるようになってからは、旅行なども行くようになり、今年は函館と、鹿児島、長崎、福岡にいきました。また今年中に広島と鳥取と静岡にも行く予定で、とても楽しみにしています。また、登山は最近所属する大宮クラブのMountain Clubの皆様に混ぜていただいて、この前初挑戦しました。
大学院に入ってからはあまり運動できていなかったので、筋肉痛もなかなか辛かったのですが、山という場所で、普段は聞けないお話をたくさん聞かせて頂けて本当に楽しかったです。経験したことのあるものとしては、スポ-ツと音楽がメインなのですが、スポーツは高校の時にサッカー、大学の時にテコンドーをしていました。あまり手が使えないので、足をメインにするスポ-ツをメインにやっておりました。また音楽においては吹奏楽を小学校2年生の時から始めていて、チューバという大きい金管楽器を中心に吹いていました。また、日本の伝統的な音楽もすごく好きで、どれもかじった程度でそんなにうまくはないのですが、和太鼓と琴と日本舞踊も経験したことがあります。また、冒頭でも少し話したのですが、アルバイトとして、塾講師(3年半)、小料理屋の店員(2年)、ケータイショップの販売員、桜祭りの出店の売り子などをやっていました。大学が青森の弘前大学でしたので、桜前線の最後として弘前城のある弘前公園が有名で、そこでおでんなどを売っていました。私の家族について少し紹介させていただきます。現在の実家は上海で、父は上海天文台に勤務しています。母は元々体が弱いこともあり、現在は療養もかねて専業主婦をしています。一人っ子政策もあって中国では珍しい2人兄弟なのですが、日本で生まれたため、弟がいます。出身は中国の山東省で、標準語圏ギリギリで、なまりがきついことで有名の山東語を家族全員話します。テーマにもあったので、そろそろ皆さん気になっているかと思うのですが、私の経歴について少し説明させていただきます。実はわたしは他の奨学生とは異なり、小学校1年生のときに日本に来日し、そこからずっと日本に住んでいます。父が転勤族だったこともあり、現在までに9回ほど引っ越しをしており、主だったものだけ紹介させていただきます。まず、生まれは山東省の県庁所在地である済南市で、山東省は青島ビールで有名な青島と同じ省です。そこから6歳の時に日本の桜島で有名な鹿児島県鹿児島市に引っ越しました。この時はおはようとこんにちはしか日本語がわからなくて、初めは本当に苦労して、毎日母に泣きついていたのですが、週に1回日本語教室に通い、また母お手製の日本語かるたなどを使って日本語を勉強したのを覚えています。でも、子供なので、大人よりはまだ簡単に日本語を覚えまして、小学校5年生の時に岩手県奥州市に引っ越しました。ここは世界遺産の中尊寺金色堂のある平泉の北に位置していて、鹿児島市が県庁所在地だったこともあり、初めはこんな田舎に住めるのかとか思ってビクビクしていたのですが、その分本当に人が優しく、またご近所付き合いを初めてさせていただいて、地域のコミュニティーのありがたさを知ることができました。ここで高校卒業まで過ごし、大学は青森県の弘前大学に進みました。この時に家族は中国へと帰り、現在実家は上海にあります。この写真は冬の弘前城なのですが、結構弘前城は四季それぞれで風情があってすごく綺麗です。雪はニュースでもあるようにひどい時には一日で1m以上積もるのでなかなか大変でした。そして今、奈良県生駒市に昨年から住んでいます。奈良は修学旅行以来だったのですが、電車に乗っていてもお寺などの歴史的建造物がたくさんあって、私はまだまだそういうのには疎いのですが、ほんと日本でもなかなかない風景だなと、疎いなりに日々感動しています。また大阪や京都も近くて、人々も優しいので今までで一番住みやすいなと感じています。ここまで軽く私自身について説明させていただいたのですが、本日は卓話ということで、小学校から日本という少し特徴あるバックグラウンドを持ち私ならではの国際交流についての考え方、感じ方を少しお話させていただいて、後半は現在一番力を入れている研究についてお話させていただきたいなと考えております。来日17年目の私だからこそ感じる国際交流の難しさについて少しお話させていただきます。この17年間で国際交流、つまり異国感を感じる相手が変化しました。来日した小学生の時はもちろん日本語もほとんどわからない状態でしたので、外国人といえば日本人でした。しかし子供はよくも悪くも適応力が高いので、中学高校に上がる頃には日本に馴染み、アイデンティティも完全に日本になっていました。これは、鹿児島は同じような外国人が多くいたのに対して、岩手の方は外国人自体も少なくて、中学という多感な時期に私自身もなんとか他の子の中に違和感なく馴染みたいと努力した結果でもあると思います。そのため、無意識のうちに異国感を感じる相手が変化したことに気づかないまま、大学へと進学しました。大学に進学しますと、いままでにないくらいに人と関わるようになり、当然ながら留学生とも多く関わるようになりました。特に中国語サークルに所属していたこともあり、中国人留学生と一番関わることが増えたのですが、会話していく中で、同郷であるはずの彼らとの間に違和感があることに気付きました。彼らとの間にある違和感は、週に長くて3時間のただのサークル活動中では気付かず、むしろ中国人は同郷意識が強い分、すごく仲良くなっていきました。どれが如実に現れたのは、1年かけて仲良くなった中国人留学生グループと4泊5日の旅行に行った時でした。やはり日本で2/3以上過ごした私と彼らでは文化や考え方に違いがあり、むしろ言葉が通じる分、その違和感は的確に相手に伝わってしまい、最終日は喧嘩になってしまいました。しかしこの経験は、文化の違いを認識することの大切さを私に教えてくれた経験でもあり、それとともに、中国語が通じるはずの私の中に私ならではの言葉の壁が存在していることにも気付きました。では、この私ならではの言葉の壁とは何か?私なりに考察してみたのがこちらです。後天的に、母国語以外の言語、この場合だと中国語ですが、を勉強された方と元々中国語が話せていた私では、意味の取り方、意訳の仕方に違いがあるのだと感じました。例があまり思いつかなくて、なぜか英語で例えているのですが、(わかりにくかったらすみません。)簡単にいうと英語の「Excuse me」と「Sorry」の違いだと思います。日本語では同じ「すみません」を使用する場面ですが、英語では使い分ける必要が有ることを私たちは通常の英語学習の中で自然と学んでいます。つまり、通常の言語教育では、言葉だけではなくその国の文化を含めた意訳された言葉を無意識のうちに勉強しているのです。それに対し、私の場合は誰に学ぶでもなく、もともと自分の中にあった中国語という言葉を日本のアイデンティティのまま、いわば直訳のような形で話しているため、中国語としてはあってはいるものの、正しい意思疎通に齟齬が生じてしまうのだと思います。なまじ言葉としてはあっている分、正しく伝えられないし、自分も正しく受け止められないという結果になり、結果けんかしてしまったのだと思います。このように同郷であるはずの中国人との間に違和感が生じてしまう経験をした私ですが、このおかげで、文化の違いを認識することの大切さを早い段階で知ることができました。私ならではの意志疎通の齟齬も認識しているかどうかで大きく変わってきます。また齟齬はあるもののやはり言葉が通じる分、交流も他の方よりはスムーズにできますし、中国人の友人も多くできました。また、この経験を通じて、他の国々の方達ともスムーズな交流をすることができており、これは去年大学院のイベントで言ったのですが、いい意味で隔たりのない多国籍の友人を作ることがかなっています。来年からは、グローバルな企業に就職することもあり、より多くの方達とスムーズな交流ができるよう努力していきたいと考えています。

次に、今一番力を入れて取り組んでいることとして、現在の研究内容について簡単に説明させていただきます。まず、研究テーマはアブラナ科植物の自家不和合性における自他識別認識機構の解明となっています。この黄色の花がアブラナという花です。具体的に何をやっているのか、説明していきたいと思います。まず、この写真は何の写真か分かりますか?
これは雌しべの先端に花粉を付着させた時を顕微鏡下で観察した写真です。花粉から、花粉管が伸び、雌しべの中に入っているのが確認できると思います。しかし、同じような写真に見えるのですが、右の写真では花粉管が伸びていないことが確認できると思います。ではこの2枚の写真の違いはなんでしょうか?これは自身の雄しべ上の花粉か、別の株の花粉かという違いがあるのです。他の株の花粉がめしべにつきますと、花粉が給水し、花粉管が雌しべへと伸びますが、自身の花粉がついても花粉は伸びません。つまり、植物は自身のクローンが増える自殖を防ぐシステムを持っているということになります。では自殖が進む、つまりクローンばかりが増えると何が悪いのでしょうか?受精の過程のみを考えますと、他の花を必要としない分、自殖の方が有利なのは確かです。ここに例を示したのですが、地点Aには自殖が可能な花が咲いているとします。この地点Aは非常に穏やかな気候であり、この気候に最も適した黄色の花はどんどんクローンを作っていきます。しかし、そんなある日急な寒気による冷害が発生し、気候が急激に変化しました。もしこの黄色の花が寒さに弱い花だとしたらどうでしょうか?急激な気温変化に耐えられず、全滅してしまいます。しかし、もしこの花が自殖を防ぐシステムを持っていたとしたらどうでしょう?地点Aが穏やかな気候の時、自殖するときよりは、ペアを必要とするため、増え方は先程より遅くなるでしょう。しかし、その分少しずつ違う遺伝子を取り入れることで、多様性を持つ花が多く咲くようになります。ここに同様に冷害が発生したとします。もちろん本来この花は寒さに弱いため、ほとんどの花は死んでしまいます。しかし、遺伝的な多様性つまり、いろんな性質をもった花が咲いているため、寒さに強い性質を持った青い花だけは生存できます。そのため、この青い花のおかげで、この花は種の全滅を防げるようになります。つまり、植物は進化の過程で自殖を防ぐシステムを取り入れることで、多様性を保ち、様々な環境変化に対応できるようにしているのです。先程から話している自殖防止システムのことを自家不和合性と呼び、この写真のように自らの花粉による受精を防ぎ、他家受精をすすめる機構のことをさしています。私は特にアブラナ科植物の自家不和合性に着目しており、このアブラナ科植物には大根やキャベツなど、私達が普段食している多くの葉野菜、根菜を含んでいます。私は特に自身の花粉と他の花粉をどのように識別するかを調べており、そこには雌しべの先に発現しているタンパク質と花粉の周りに付いている因子の相互作用が大きく関わっています。現在、日本で販売されている根菜類の多くは雑種強勢を利用したF1ハイブリッド種子が利用されています。このF1ハイブリッド種子は遺伝的な背景が異なる親株を交配することにより作成され、その植物体は両親よりも旺盛な生育を示すため、価値の高い商品を生産することができますしかし、F1ハイブリッドは一代限りのものであり、その優秀な種を維持するためには親となる植物の維持(ホモ)と交雑のしやすさが大事になっていきます。ここの調節に自家不和合性が大きく関わって来るのです。例えば、自家和合の植物では親となる植物体の維持は簡単に行えますが、交雑がしにくくなってしまいます。これに対し自家不和合の植物であれば、交雑は簡単に行えますが、自己の花粉で種子を作ることができないため、親となる植物の維持は困難となります。本研究により、雌しべ側因子であるSRK/SP11複合体の構造を解明し、雄しべ側因子であるSP11との結合を阻害するリガンドを人工的に構築できるようになれば、自家受粉を効率的に進めることが可能となり、F1ハイブリッド種子作成の新技術の構築ができます。そしてその技術を用いて、将来的には優良品種の開発や、更には食糧やバイオエネルギーの増産につながることを期待しています。ご清聴ありがとうございました。