桜井ロータリークラブ

一般の方向け

2/15 辻 正人監督  講演

今から30年以上前の時代、日本でサッカーのJリーグが始まったころ、学童野球の世界では野球をする子供が減る危機感を強く感じた。子供が野球をしないとプロ野球も存在することはない。今の時代は各世代、危機感を持っているが学童は30年前から危機感を持って取り組んでいる。

その時代からスパルタ根性野球で全国大会に出ていたが、12年前に転機となったのがイタリアでの世界大会に出場したときの事。

まず大会開始が予定時刻の2時間遅れとなり、日本との文化の違いを感じた。そして入場行進の際、世界のチームの選手は下は短パンでユニフォームをはおったような自由な恰好。そして今のオリンピックの入場行進のような楽しそうな行進だった。対して日本の自チームの入場行進は軍隊のような行進で笑顔もない。結果、イタリア大会で世界一になったものの「何かが違う」と感じた。子供の野球はヨーロッパのように楽しくやりたい、と思うようになったが楽しくやろうとすると批判される事もあった。それは、周りの厳しい野球指導の人たちにとっては困ることだから。

筒香、ダルビッシュ、桑田…、彼らのように世界の野球を見た人は日本の野球教育について否定的である。

その後、全国大会で一回戦負けをした年があり、そんな時の帰りのバス運転は針のムシロのような状態。保護者のガス抜きが必要かと考えて保護者からアンケートを取ることにした。すると多くの批判コメントが寄せられた。「なぜ、そんな言葉遣いなのか?」などの保護者の意見に、これは絶対に自分が変わろう、と決心した。

まず、子供たちが元気になるように指導しよう。そして親も元気で楽しくなるように。さらに指導者も楽しませてもらおう、と。

7年前、新チーム始動時に「喜ぶ練習」から始めた。

そして全力疾走をまず褒め、次にフルスイングを褒める。そしてヒットを打ったら3番目に褒める。こういう事をしていると子供たちが元気になってきた。見ると、保護者も笑顔になっていた。その笑顔を見ていると自分たちも嬉しくなった。

変えたのは言葉。言葉を変えただけ。

野球のグラウンドというものは、指導者を鬼にしてしまう空間である。家に帰れば優しいお父さんなのに、グラウンドでは厳しくなってしまう。ここを変えないといけない。しかし変えるというのは簡単ではない。

変えると決めたらコンビニで買うおにぎりも変えるくらいの気持ちが必要。変えることを楽しむくらいの意識で。

他人を不快にさせない、というトレーニングには車の運転なども有効。また飲食店では店員さんを気持ちよくさせるようにしている。「これ、メチャクチャ旨いですね!行列できて忙しいのも分かる!早く食べて席も空けるからね!」などと言っていると不愛想だった店員さんの顔も明るくなった。ガソリンスタンドでは「速いね1F1でも行けるよ!」と言ってみたり。こうやって相手を気分よくさせる言葉をかける訓練をして、自分が変わっていった。

マクドナルドの店員さんは笑顔が凄い。不愉快にさせるマクドナルドのアルバイトを見た事がない。つくり笑顔ができる人は天才だと思う。つくり笑顔によって相手は本当の笑顔になり、それを見た自分も本当の笑顔になれる。

子どもたちの態度や取り組む姿勢が悪い…というのは原因が大人側にあると考える。練習メニューに問題があり、仕組が悪いからである。例えば音読をしなさい、で終わるのではなく音読タイムトライアルにしたら子どもは喜んでやっている。どんどんやってしまうように作られた仕組を「すべり台の法則」という。

保護者のお母さん、特にお嬢様のような方に「何で、あんなケンカみたいな言葉使いをするんですか?」と問われた。野球指導の世界ではなく、一般社会ではそれが常識的な感想となる。ここに応えていかないと野球をする子どもは増えない。子どもに野球をやらせる権限は母親にあり、そしてそれは子育ての一環に入れるかどうか、ということ。母親たちに受け入れられないようでは良いチーム運営はできない。

今、私たちが使っているものは多くが日本製ではなくなっている。昔は日本製のものが多かった。すなわち日本に多くの工場があったということ。その時代は工場で、時間通りに決められた作業を根気よく繰り返しできる人間が求められていたので、野球経験者は就職もよかった。しかし今の時代は違う。現在求められている人材は「自分で考えて判断できる人材」。昔ながらの野球教育は今の時代に求められなくなっている。なので野球でも子供たちが自分たちで考えて判断する野球をノーサインでやらせている。こういう競技だったら子どもに野球をやらせたい、そう母親たちに思ってもらえる事を目指している。これはまだ実験段階でもあるが、それが生き残れるチームだと思っている。