卓話 得度して 上田貞夫会員
私は2009年10月に得度(仏さまに結縁する機会)いたしました。
そのお話しを、是非聞かせていただきたいと云う会員の要請に応えてお話しいたします。得度をしたいと決意いたしましたのは、まず、友人の矢和田忠一氏の勧めが(彼は元教育長で昨年度まで東大寺学園の校長)あった事ですが、何よりも東大寺の行事が内側からみられるという好奇心からでした。私の中学時代の恩師の兄であり、当時の東大寺の上野道善別当に承諾をいただき、三日間の修行に参加することになりました。ところが、ひとつ、問題がおこりました。私は当時御所市教育長でありましたが、御所市市議会の日程と一日重なったのです。諦めかけましたが、別当に相談いたしましたところ其の日だけ抜けても良いという有り難い許可をいただきました。もう一つ、気がかりな事がありました。私の家は浄土真宗で門徒なのです。東大寺は華厳宗です。しかし、東大寺は皆さんもご存じのように天平時代に聖武天皇が国の安寧を願って全国に国分寺を建立いたしました。東大寺はその総本山であります。仏教の教理を研究する学僧を養成する役目も担ってっているということでその懸念はいらないということでした。
いよいよ、修業が始まりました。
2泊3日の寝泊りは参加者皆さんとのざこ寝でありました。中には四国からいらっしゃった方もありましたが、得度に参加できるのは東大寺の塔頭の指名でなければなりません。食事は精進料理でありましたが、大変美味しいものでありました。
一日目、少し緊張しながら研修に臨みました。南大門の右側の堂で東大寺の成り立ち(歴史)等々を学びました。結構楽しい講座でありました。お昼から、法衣を誂えました。
二日目、冒頭に述べましたように、御所市市議会の公務のため夕方に戻りました。夕食の後、天皇殿で得度式がありました。聖武天皇の祀られている処です。深き暗闇に蝋燭だけの灯りの場所で粛々と上野別当のご指導を受けて得度が終わりました。戒めの言葉をはじめとして、色々と心に深く刻まれましたが、中でも般若心経の「色即是空」の言葉を大切にしています。色とは世の中におこる全ての事柄(精神的なもの、物質的なもの)であり空とは永遠ではないという意味です。この世に永遠な物は何もないということになりますが、自分なりに、いいことがあってもいつまでも続かない、悪いことがあってもいつか終わるという風に思っています。
三日目、「道貞」という法名を戴きました。道は上野道善別当の一字を戴き、そして自分の名前の貞夫の一字を合わせて「道貞」です。2月堂と3月堂そして東大寺をお参りし、教本、数珠、袈裟をいただいて得度は終わりました。得度して良かったことは、自分がちょっと一皮抜けたこと、そして、私の後ろに大仏様がおられて、私を守ってくれている気がすることです。翌年2010年5月には聖武祭に参加いたしました。新公開堂で1000年前の衣裳を着せていただきました。沢山の方々の見ている処で、新人ではありますが、僧として聖武祭に参加できました事は大変嬉しく、楽しい事でありました。
2009年得度して
2010年聖武祭
2010年聖武祭