私は、吉野で生まれました。小さい頃は、よく祖父に山に連れていかれました。
きっと祖父は、山はこんなものだというのを私に見せたかったのだと思います。
その山にはたくさんの吉野杉が植えられていました。吉野杉は、国産材のブラン
ドの一つで奈良県中南和部の吉野林業地帯が産地です。50~60cmの苗木をだい
たい1m間隔で植えます。植林と言われているものがこれです。苗木は、年2回
程度、下刈りします。夏に行うので暑くて大変な作業です。背の届く範囲で
下刈りと同時に枝打ちもします。なぜするかというと太陽の光を根元まで取り
入れる為です。
木の成長をみながら15年ぐらいしたら間伐を行います。その間伐した木を酒樽や
しょうゆ樽にします。吉野杉で作られた樽は、年輪が揃い、木目が細かいのが特徴
です。ここで、樽以外にもう1つ間伐を用いた吉野杉産業を紹介します。つつじの
木を割り箸ぐらいに切って、杉にまいてはずしたときに凸凹模様がつくようにしま
す。これを「しぼ」と言います。昔の家では、和室の柱などに使われていました。
他にも足場丸太として間伐された吉野杉が使われていましたが、最近ではより安値で
丈夫な鉄製のパイプが使われるようになりました。このように成長につれて間伐され
た吉野杉は、その都度、用途にみあった製品となり、人々はそれで生計をたてること
ができていました。しかし、最近は、このような間伐材を使った製品や吉野杉自体で
の商売が外国製の木材にとってかわられたことなどから吉野杉は、生計の糧とはなら
なくなりました。以前は、「山守り」に手入れを頼んでいましたが、「山守り」制度も
薄れてしまい、益々、手入れされない山が増えています。それは、非常に残念だなと
思うことの一つです。私の兄も山を持っていますが、最近では、山の「や」という文字
すら言わなくなりました。
山が手入れされなくなった結果、太陽の光が根まで届かなくなり、木々も根がはらなく
なって、土砂災害につながると言われています。以前に十津川で起こった土砂災害も
それが原因ではなかったかと思っています。
もっと山や木々を手入れしていかないといけないと思います。どうぞ皆さんも吉野の
林業地域で何がおこっているか知り、木々を大切に思いやる気持ちを持っていただけ
れば幸いです。